ボカコレ2025夏が終了し、もう1週間ほど経ちました。
それで今回私が作曲した「うたてとて」を作った経緯や制作秘話など、当時を振り返りながらお話ししたいと思います(ちょっと長くなりますが…)
まずちょうど1年前の2024年9月頃、YouTubeでこの曲を知ることになります↓
この曲は、間宮芳生(まみや みちお)作曲の『合唱のためのコンポジション第4番』合唱とオーケストラのためのコンポジション 子供の領分、という曲で1960年代に作曲された音楽です。
間宮さんは現代音楽の作曲家で、映画「火垂るの墓」の音楽を担当された方でもあります。
間宮さんのことは私が作曲を研磨していた頃(音楽大学に通っていた頃)に知って、「日本民謡集」や「弦楽四重奏曲」など、とても好きな作品で尊敬している作曲家の1人です。
ただ、この『合唱のためのコンポジション第4番』は今まで聴いたことがなく、たまたまYouTubeのおすすめ動画として出てきたので興味本位で聴いてみたらビックリ!
いきなり「でぶ、でぶ、百貫でぶ、電車にひかれてペッチャンコ」と歌い出すのです笑
これは「悪口うた(からかいうた)」と言って、わらべうたの種類の中でも「となえうたの」ひとつになります(「となえうたと」は、言うこと唱えることが目的とした歌です(数え歌もその一種です)
そして、曲が進むにつれて他のパートが別のわらべうたを歌い出し、複雑に旋律が絡み合います。そして最後にユニゾンで「あんた、ちょっと、見かけに、よらない、ゴリラの、ろくでなしの、なりそこないの、はっきりいえば、クルクルパー」と言って導入部(曲の始まりの部分)が終わるのです。(よくこの歌詞を見ると数え歌の形式になっています)
この曲は、1960年代の東京の小学生たちが実際に遊びの中で歌われていたわらべうたを使用し、50種以上のわらべうたを組み合わせられて作られた曲です。
第1楽章〜第5楽章まであり、特に第3楽章が私のお気に入りで、絵かき歌を中心に作られた曲です。第5楽章も好きで最後の部分(18:20〜)では、「うたてとて」でも使われた「イギリス、日本、上海、etc.」の地名の数え歌が出てきます(「うたてとて」では、この素材(地名の数え歌)を私の曲に合うようにアレンジをして、間宮さんの方はこの歌の原型のまま使っています)
私はこの曲を初めて聴いて愕然とし、60年以上前の曲なのに自分の知らない言葉や歌が沢山出てきて時代を超えた新鮮さを感じました。
間宮さんがこの曲を作るにあたって、重要な人物が1人いました。
民族音楽学者の小泉文夫(こいずみ ふみお)が当時(1960年代)、東京藝術大学の楽理科の学生と共に10年の歳月をかけて東京の小学生を対象にわらべうたを収集研究をし、それをまとめた論文と比較総譜を2冊作りました(私が図書館で借りたものの写真)↓

小泉さんが収集したわらべうたの素材を使って、間宮さんがオーケストラと児童合唱という編成でこの曲を作ったのです。
私はこの曲を通してわらべうたの魅力を知り、日本のわらべうたや民謡について研究することになりました。そして研究していくうちに、わらべうたの素材や民謡の要素を取り入れた楽曲を使れないかと考え始めました。
色々アイディアが浮かぶ中で、男女デュエットでお互い突拍子もない言葉の掛け合いをしあう曲を思いつき、間宮さんと同じくわらべうたの素材を使い、あくまでPOPSの曲にしようと決めました。
今までPOPSの歌もの曲など作ってことがなく、なぜそういう風にしようかと言われると、やはりたくさんの人に聴いてもらいたいからという願いからです。そして2025年に入り、とあるコンペの情報を知ることになり、新曲「うたてとて」を作ることになります。
2月頃、とあるテレビ番組で有名インフルエンサーの方達がいくつかお題を出し、そのテーマに沿って曲を作るという企画がありました。その中の1つに「あっち向いてホイ」がお題に出されていて、その時思いました。
「あっち向いてホイ」は必ずじゃんけんが伴う、じゃんけんはわらべうたの一種(手遊びうた)だからこのテーマに沿って曲を作ろう!と決めました。
この時締め切りが1ヶ月先でかなり余裕があると思っていたのですが、それは大間違い!
今まで私はピアノやオーケストラなど、インスト曲しかほとんど作った経験しかなく、POPSの歌ものが如何に時間がかかるかわかっていなかったのです。
しかも、今回ボーカルには初めてボーカロイドを使うという事で使い方もまだ良く分かっていない状況でのことでした。
本来ならボーカロイドではなく、少年少女の人の声を想定して作りたいと思っていましたが、探してみても見つからず、そこで作り手の思い通りに歌わせることができるボーカロイド(鏡音リン・鏡音レン)を使って制作しようと思いました。
そして、小泉さんのわらべうたの研究の本から10〜20種類ほどわらべうたの素材をピックアップし、それで作詞作曲と作業に取り掛かりました。
間宮さんの「合唱のためのコンポジション第4番」のように、私もいくつものわらべうたを組み合わせて曲を展開させていく構成で作っていましたが、これが全然曲が良くならない笑
何が良くないか具体的に答えると色々あり過ぎて長くなるので割愛しますが、とりあえず何回も聴いても良い曲とは思えなかったのです(曲の途中までしかできていませんでしたが…)
実はこの時、曲名の「うたてとて」は決まっていました。
「うたてとて」の意味、特に「てとて」とはどういう意味なのかというと、手遊びのことを指しています。「じゃんけん」や「あっち向いてホイ」はお互いに手と手を使って遊びますよね。そこからこのタイトルができたのです。
締め切りがあと1週間前になっても、まだ半分ぐらいしかできていませんでした。どうしようか思い悩んでいた時に、ふとあるフレーズが思い浮かんだのです。
「う・た・て・と・て(音名:レ・ファ・ソ・ファ・ソ)」
このフレーズを思い浮かんだ時、急いで五線譜にメモをしました。そして、そのフレーズと共に今作っていた曲とはまた別の曲の構想を思いつき、締切1週間前でしたが作り直すことにしました。
その後、イメージを膨らませ2時間ほどで歌詞を書き上げ、さて音源を作ろうとしましたが、この曲を1週間でインスタントに作るのは勿体無いと思ったのです。歌詞を書き上げた後、もう曲全体のサウンドや映像のイメージがほぼできていたので、これを急いで作ってクオリティーを下げさせたくないという意思が出てきて、今回のテレビ番組の企画ではなく、もう少し先の時期にある別のイベントでこの曲を発表しようと考えたのです。
このコンペに参加するにあたって、ストリーミング配信用のジャケットが必要で、そのジャケットイラストをカニ侍さん (https://x.com/Vzor61)に依頼をしていました。先にジャケットはできていたのですが、カニ侍さんには事情を説明し、今回のテレビの企画は見送りにしました。
そしてちょうど制作していた頃、「ボカコレ」というニコニコ動画主催のイベントがあり、夏と冬の年2回あるのですが、当時の冬のボカコレの盛り上がりを見て、今年の夏に参加してみようと計画しました。

ジャケットイラスト:カニ侍
月日は流れ、5月頃、2ヶ月かかりましたが(トラックの数が100以上と量が多すぎため、まとめ上げるのに時間がかかりました…)デモの段階まで曲が最後まででき、ブラッシュアップもしつつ、次にMVを作ってくれる人を探さなければなりませんでした。
絶対にこの曲はアニメーションにしたいと思っていたので、色んなアニメーターの方に声をかけてみたところ、アオさん (https://x.com/muzzlerA0)に作っていただくことになりました。
映像のシナリオは私で考え、ジャケットを担当したカニ侍さんがキャラクターデザインを担当、動画はアオさんが担当し分担しながらMVの制作を進めていきました。
アオさんが絵コンテを作っていたのですが、キャラクターの配置やアングルなど詳細に伝えるため、途中で私自身で絵コンテを少し描いたりしました笑(自分は絵を描くのは下手なので大変だった…)
MVの制作は6月〜8月半ばまでの2ヶ月半の制作期間でしたが、ボカコレ前になんとか完成し参加することができました。
このボカコレではランキング形式になっており、1位〜100位まであり、再生数、いいね、コメント、マイリストの数が多いほどランキング上位になる仕組みで、このイベントでは何千曲と投稿されその中で競い合うのです。正直、ランキングに載れるぐらいのクオリティがこの曲にはあると自負していましたが、ここで大きな落とし穴があったのです。それはSNSの影響力が大きく関わってくるということです。それまで私はSNSで情報をほとんど発信してこなかったので、拡散力がなかったのです。
そして今回ランキングに載ることはできませんでしたが、この曲をきっかけに私のことを知ってくれた方やMVの制作で関わってくれた才能あるクリエイターと一緒に制作できたことが本当に良かったと思っています。
もう長くなってきたので、そろそろこのへんで話を締めたいと思いますが、この曲を作るにあたって、初めてのことだらけで右も左もわからないまま制作してきたのですが、なんとか曲を完成させ、こうやって皆さんに楽しんでいただけている状況を見て、本当に嬉しく思っております。
実は、来年のボカコレ2026冬にも参加するつもりです!どういう曲にするかはもう決めてます!お楽しみに〜。そして来年のボカコレまでの間にもいくつか曲を発表できたらと考えております。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
今後も飛躍できるよう活動していくので、応援のほどよろしくお願いいたします。
2025/9/3 松代航